脳内イメージと映像 (文春新書)

脳内イメージと映像 (文春新書)脳内イメージと映像 (文春新書)
(1998/10)
吉田 直哉

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例の山手の古本屋さんでなんとなく買ってきたんだけど、読んでみたらすごく良かった。

人が死の間際のような極限状態のときに見ると言われる鮮やかなイメージ。通常の生活のなかで人はその能力を使わない代わりに、その代用品として映像を求めるのではないか、いま社会にあふれている映像というのは脳内に鮮烈なイメージを生み出す能力をフル稼働させない代りに脳が求める一種の代用品なのではないのか?というテーマがおもしろいと思いました。

そして、その代用品の代表が映画だということで、映画史とか映画技法についてたっぷり書かれてるのもおもしろくて得した感じです。

例えば、エイゼンシュテインとかロッセリーニとか名前だけは耳にしたことはあるけど・・・みたいな有名映画監督が一体何をしたかった人なのかということが詳しく書かれていたり。といっても私は映画技法については一読しただけではようわからんところがたくさんあったわ。みんなの言ってるモンタージュ理論っていうのがなんなのかとか。

著者の吉田さんは元NHK職員だったそうなんですが、この本読むと、とても実験的な番組づくりをされてたみたいでした。空海の脳内風景を映像であらわそうと奮闘したり。

空海は「一個の塵に全宇宙が宿る」みたいな、ミクロとマクロの相似関係に注目した人で、吉田さんはその考えが確立されていく脳内の様子を映像で表現しようとしたんだそうです。もちろん、お坊さんがお寺の前で座禅くんで・・・みたいな再現VTRではなくて純粋な脳内イメージを。

この企画は壮大すぎてまとまらなくなり、最終的にはNHKスペシャル「太郎の国の物語」という番組で司馬遼太郎さんの脳内イメージを描くことで落ち着いたそうなんですが、そういうことにチャレンジしようと動いたこと自体がすごいです。テレビって、そういうぶっとんだクリエイティブさって発揮できなさそうなイメージがありましたから。

創作意欲が湧いて、見たい映画や読みたい本もどんどん出てくる刺激的な本でした。