香水のネーミング

香水は、良い香りを身にまとうためのものという実用性以上に、イメージが強いもの。
そのために、香水のネーミングやパッケージで魅惑的なイメージ作りをすることが重要になる。

いま読んでいる『タイトルの魔力』に香水のネーミングが解説してあるところがありました。
なるほどと感心したのでメモをします。


ヴェルサイユの舞踏会」(Bal a Versailles)

ヴェルサイユは宮廷と上流社会のこと、舞踏会はその上流社会の淫靡な側面。
本書によると、フランス語の中では、ここで舞踏会を表すBalという言葉は庶民的なもので、その舞踏会の享楽的な感じに、ヴェルサイユという取り澄ました場所を組み合わせることで、官能的な雰囲気を出しているのだとか。
私を含む多くの日本人には、舞踏会は当然ヴェルサイユみたいなところで行われるものだというイメージがあるので、この解説は意外でした。


「ときの空気」(L'Air du temps)

スペルと訳だけではわからなかったのですが「レールデュタン」と聞いてわかりました。そうだ、そういう名前の香水ありましたね!
これは"vivre de L'air du temps"「ときの空気で生活する」(霞を食べて生きるという意味だそうです)の成句のなかの名詞句だそう。「ときの空気」は、まさに香水の目には見えないけど空中を浮遊する性質と対応しています。また、「ときの空気」は「時代の雰囲気」とも読めるので、商品のモード的な側面とも対応しているのだとか。…考えた人すごい!


「夜の飛行」(Vol de la nuit)

日本では「夜間飛行」という名前で知られている香水ですが、フランス語だと、サンテグジュペリの小説「夜間飛行」とイコールの名前ではないそうです。もちろん、そのタイトルを思わせるネーミングになってはいます。どこが違うかというと、香水の名前の方には、夜(nuit)の前に冠詞(la)がつくことで、小説のタイトルにはつかないこと。
冠詞がつくことで、「夜の飛行」は「夜が飛行する」という意味にもとれるんだそうです。
(フランス語の知識がないので、ちゃんと確認は出来ないのですが)
もちろん、「夜」には性的な含みが持たせてあります。


「毒(Poison)」「アヘン(Opium)」「なつかない女(Farouche)」「アマゾン(Amazone)」「エゴイスト(Egoiste)」

これらも香水の名前です。今ではアマゾンというとネット書店を思い浮かべますが、ここでのアマゾンはアマゾネスの方の、強い女という意味です。これらのネーミングは、フランスでどのような女性が魅力的とされているかがわかります。きっとこういう一筋縄では行かない女性がいいんでしょうね。フランスの恋愛映画でも、こういう気性の激しいヒロインってよく出てくるし。日本だったらもっと優しげな名前がつけられるんじゃないかな。


「ポエム」(Poeme)
これはアクサン記号(アルファベットの上に置く記号)がないと、表現しづらいのですが、このポエム(詩)の本来の綴りからすると間違った場所にアクサン記号を置いていて、それがランコムのアクサン記号と対応していて「なるほど、このブランドの商品なんだな」というのがわかるとのこと。この本の「視覚性を巻き込んだ言葉の遊びである」という表現の仕方が気に入りました。


「シャネル5番」
既に価値の確立された香水だったらから気にしてなかったけど、よく考えたらヘンな名前ですよね。
この素っ気無い名前は、音楽作品の番号やモダニズム絵画のタイトルのつけ方を模していたんだそうです。これは知らなかった!



この本に書いてあった「香水は液体に名を記すことは出来ないので、瓶やパッケージに名をプリントする」というのが面白かった。ふだんは当たり前のこととしてまったく意識されないことだから、こうやってあらためて言われるとそうだなあと。
この本には、このような、ふだん無意識にやり過ごしていることを、うまく説明したり定義づけたりする記述がたくさんある。それが気に入ってこの本を読もうと思いました。