林真理子『フェイバリット・ワン』 日常生活に支障をきたさない程度の面白さ。これは娯楽作品としてとても素晴らしいこと。
- 作者: 林真理子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2014/03/26
- メディア: 単行本
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面白くてすぐに読んじゃった。
林真理子先生というと大御所とはいえ、例えば知的でサブカルな自分を演出したいときに好きな作家として名前をあげるタイプじゃないんだけど、こんなふうに楽しく読める作品を安定供給しているってすごいことだと思う。
・主人公の設定が絶妙
主人公の設定が絶妙。この作品は雑誌MOREに連載されていたということなんだけど、ちょうどその読者が感情移入できる感じ。美女ではないんだけど、そこそこかわいくてメイクや服に気をつかえばちゃんと綺麗になれる程度の容姿。多くの女性が精神的に良いコンディションのときに抱く自己像(精神的に落ち込むと自己像がブスになる気がします)。
内面的にも、あまりだらしなくなくて自分なりの道徳観がちゃんとしている。まあ、自分で構築した道徳観ではなくて、親や環境からそのまま引き継いだ道徳観なので幼稚な面もあるんだけど、あの自らの良識を意識し他人を潔癖に裁くみたいなところは、皆が持っているところなので、だらしない主人公よりもずっと自己投影しやすい。
で、そういう良識を持ちながらも、出会いや人からの影響に素直に取り組んでいくうちに、気がついたら自らの良識では否定しそうな「したたかな女」に自らがなっていたというのも面白いなと思った。したたかな女性っていやだなと思っていても、意外に自分も紙一重なんだよと受け取りました。
・ミーハー心が満たされる
林作品の多くに言えますが、こちらの作品にもモデルやお笑い芸人やパチンコ屋の社長などなどが登場し、林先生のミーハー人脈が見事に生かされているように思いました(笑) アパレル界や芸能界とか華やかな世界の裏側が描かれていて、「ほらでもこれ創作でしょ」と「そうはいっても妙にリアルだし」の狭間の感じがなんともいえません!私は思いっきり本気で受け取っています。その方がおもしろいでしょ?
・口角女が出てきた
林先生のどの作品か忘れちゃったけど、口角女は何回か見たことある気がする。
ちなみに口角女とは
ほら、飲み会や食事会に、男の人が自分のお気に入りの女の子を連れてくることがあるじゃない。そういうコって、自分は若くて可愛いだけで、その輪に入る資格があるって信じてる。だけどさ、話にはまるっきりついていけないから、口角をきゅっと上げたまま。ただ人の話を聞いてるの。
だそうですw
・子どもの描写がかわいい
お話の中に、1歳が2歳くらいの幼児が出てくるんだけど、ほっぺの感じとか描写がすごくかわいかった!
・気持ちを揺さぶられない範囲のはらはら感
これは貴重。面白い話ですから、それなりにアップダウンはあるのですが、それがほどよい範囲で収まってくれるんですよね。例えば桐野夏生さんの『グロテスク』ってやめられない面白さはあるものの、ページを閉じた後までどよーんと気持ちが暗くなっちゃったからね。その点、林真理子さんの作品は日常生活に支障をきたさない程度の面白さというのがいいですよ。