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『絶叫師タコグルメと百人の「普通」の男 』

 

絶叫師タコグルメと百人の「普通」の男

絶叫師タコグルメと百人の「普通」の男

 

昔、笙野頼子作品の引きこもって夢と現実の境目で生きる様子を描くのが好きでよく読んでいました。八百木千本が登場してからのは読んでなかったんだけど、今回『絶叫師タコグルメと〜』を読んだらすごく面白かった!

 

設定や暗喩しているものをちゃんと説明しきれるか自信ありません。不完全ながらも私なりにまず内容を説明してみると、ブ貌を誇る反骨の作家、八百木千本が主人公。彼女は他の笙野作品にもよく出てきます。作者本人の分身なようで実はそうでもなくて…みたいな人です。で、八百木千本はとある部屋に幽閉されています。ファッショナブルで流行最先端な現代アートに囲まれた部屋なのですが、見る人が見ればものすごく悪趣味な部屋。時が来ると八百木千本は「美ヶ原キレ子」という美少女人造人間みたいな存在に統合されてしまうという罰を受ける予定になっています。

 

この罰(?)は、作家・八百木千本がブスとしてブ貌を誇って生きることが「女は若くてキレイなほどいい。それ以外は生きる価値がない」とするニホン国家への反逆罪だから、みたいな話なんです。

 

そのあたりがだんだん明らかになるにつれて、面白さが加速するように思いました。これは、わりと男性と女性…肉体的な性別だけではなくて、現代日本の男性支配的な価値観、そこに違和感や生きづらさを感じているかで面白いか否かが分かれてくるのかもしれない。

 

知感野郎(知と感性の野党的労働者党の略。この小説世界の中の政権与党)のエセインテリぶり、例えばカギカッコをつければ本来の意味から別の意味合いにすることができるので発言に責任をとらなくてもいいとか、徹底的に当事者意識を持たず責任を取らず、というところの描写が面白かったです。これは笙野さんの論争相手を暗喩しているものらしいのですが、このあたりの事情を知らない人が読んでも十分面白い。私もこの辺りの流れはよく把握していませんが、日本のエセインテリロリコン層というのが日本のメインストリームで偉そうにしてるというのはとても思い当たるし、そこへの痛烈な攻撃はとても痛快でした。

 

それから八百木千本のブ貌を保つ努力は「わかるわかる」と笑ってしまいました。例えば取材や撮影のある前日には揚げ物を大量に食べて毛穴を開く努力とか、顔をむくませる努力とか。若いときは迫力のあるブ貌でも、年をとるにつれて迫力が衰えて丸くなってしまい、「おばさん」とか「おばあさん」という単一のカテゴリーに収束されていくことへの恐れとか。私を含めて、少しでも見栄えを良くしようとチマチマ細かい努力をしたり気に病んだりしているのがスコーンと破られる爽快感がありました(まあ、今後もそこらへんを気に病んだりする小心さは継続しそうですけれど)。