『アフリカの「小さな国」』 のんびりした日常と傷跡

 

 著者の大林さんはご主人(アフリカ政治経済研究者)と共に、何度もアフリカで暮らしている。本書はその中のコートジヴォワールでの暮らしが描かれている。

本書はもともとは大林さんが現地でつけていた日記なので、そういった日記らしい朴訥としたいい感じの語り口。たぶん大林さんがいい人だからなんだろうなあ。

大林さんご一家は、コートジヴォワールの都市、アビジャンの、わりとアフリカ人の中流家庭が集まる街の中に住む。日本人をはじめ外国人(現地の人たちからはどちらも”白人”と呼ばれている)はどこかまた別に固まって住む場所がある。だから大林さんご一家はコートジヴォワールの人たちと日々接することになり、本書の主な登場人物も現地の人たちだ。

特に、大林家の住み込みのお手伝いさんとなるジャンヌは冒頭から最後まででずっぱりで、本書の隠れ主役的存在。奥ゆかしくて思いやりがあり、仕事への責任感が強くていざというときに頼りになる。大林さんとはとても気が合ったそうで、二人で家にいるときはいろんな話をして盛り上がったのだそう。異国の生活でこんなに気が合って頼りになる友人ができたら素晴らしいだろうなあ…。

ジャンヌがまた料理がめちゃくちゃうまくて、大林さんは毎日おいしいアフリカ料理を食べることができたそう。しかも大林さんのご主人の胃を気遣って唐辛子を別添えにしてくれたり、ダイエットのために油控えめで作ってくれたりときめ細かい!私自身、食べ物の話題が大好きなので、読んでいてとても楽しかった。アフリカ料理はほどよくパンチが利いて食べ応えがあっておいしそう。日本でも作れるアフリカ料理のレシピも載っていたのでぜひチャレンジしてみたい。

そんな楽しい日々も、後半にちょっと影がさしてくる。クーデターが起こるのだ。大林さんの滞在中には、激しい武力行使があったわけではなかったけれど、混乱中に商店の略奪が起こったり(ただ、略奪している人たちはあまり悪いことをしている意識が薄そうで、獲ってきたものを見せ合ってキャーキャーとはしゃいでいたりする)クーデター後、徐々に治安が悪くなってきたりで、胸が痛かった。大林さんが帰国後には内戦というか大規模な殺戮があり、終息後は一見何事もなかったような日々に戻ったものの、知人の男の子がそのショックで10歳くらい老けてしまったなど、やはり深刻な傷を残していた。

あとがきでは、いったん帰国した大林さんとジャンヌの再会が記されている。ジャンヌは大林さん帰国後、毎日毎日泣いて暮らしていたそう。読者としての私もすっかりジャンヌのことを好きになっていたので、数ページぶりの再会に懐かしい気持ちになってしまった(笑