女子からブスへ

小学校5年生のある日、母が突然ウキウキしながら「なっちゃん、髪切りに行かない?」と私を美容院に誘ってきた。当時の私はロングヘアだった。小学生女子がよくしている前髪のあるおかっぱがそのまんまロングになったようなヘアスタイルだ。

小学生ながらも、私の見た目を辛うじて女子っぽくしているのはこの髪型のおかげだろうことは薄々自覚していたので、その頼りの髪が切られてしまうことは不安だったが、母がご機嫌にしつこく誘うので、まあいいかなあ短いおかっぱになるくらいだったら…と重い腰を上げて一緒に美容院に出かけた。そのときはただこのシルエットを維持したまま長さだけ短くなる程度だろうと予想していたのだ。

母は美容院に行く前に、スピード写真のブースに入って二人で記念写真を撮ろうという。正確にはそのあたりのやり取りは忘れてしまったが、記憶にあるのは、美容院に行く前と行った後のビフォーアフターの2枚の写真だ。私と母が顔をくっつけて映っている。確か母は目を見開いてめっちゃテンションの高い表情をしていた。

その写真の二枚目、美容院に行った後のもの。私はおかっぱどころか妙ちきりんなマッシュルームカットだった。このときの美容院行きは最初から最後まで母主導で、髪型も母が決めていたように記憶している。一体母の頭の中ではどんなストーリーになっていたのだろう。「親子で髪を切りに行き、ビフォーアフター写真を撮影する」という思いつきに自ら盛り上がっていたのだろうか。

まあその母の謎行動はともかく、こうして、ロングヘアで辛うじて女子カテゴリーに入っていた私は、この日を境に晴れて自他共に認めるブス青春時代に突入することになるのであった!いやー髪型って大事ですね。

髪の毛だから放っておけばまた伸びてくるわけですが、私の場合は地毛が激しいクセ毛なので、一度ショートにしてしまうと、ショートヘアを抜け出る手前にもっさり感MAXになるという関所を経なければなりません。そうなると、そこを我慢できずに美容院に飛び込んでちょっとマシになショートになる→もっさり長さになる→再びショートに…という地獄のループにはまってしまうんですねえ。

それに加えて、中学生のときは何を血迷ったかバレーボール部に入ってしまい「バレー部に入ったからにはショートカットでいなければならぬ」という謎の掟の支配下に入り、余計にショート地獄から抜け出せないことに…。

再び髪の毛を伸ばせることになったのはバレー部を引退したあたりでした。そのときはあのもっさり感MAXの時期もなんとかやりすごせました。

ショートから脱したおかげで、高校生以降は、まあブスはブスなんだけど少しは女子扱いされることも増えてきました。

ロングへアになってからもしばらくは、よく「私はブスなのにロングヘアでごまかしているだけだ。潔くショートにすべきなんじゃないか」と、誰のための潔さなのか意味のわからないことで思い悩んだり、たまに髪の毛をばっさり切られる夢を見たりしていたので、あのショートヘア体験はかなりトラウマだったようです。

で、いま現在はどうしたかというと、長年のうちに自分との付き合い方とかごまかし方みたいなものを会得してきたので、当時のような悩み方はしないようになりました。髪型は、逆にロングが似合わなくなってきたかもしれません。ロングのころの画像を見るともっさりしています。短い髪の毛の方がすっきりして見えるようになってきました。