『生きて帰ってきた男――ある日本兵の戦争と戦後 』小熊英二

生きて帰ってきた男――ある日本兵の戦争と戦後 (岩波新書)

読んで良かった。

小熊さんのお父様である、謙二さんの戦前、戦中、戦後史。学者である小熊さんのお父さんなんだから、やっぱり学者だったりインテリな人なんだろうかとおもいきや、小さな商店を営む祖父母に育てられ、ご本人も零細企業を転々として最終的には小さな会社の経営者になったものの、基本的には学問や大学とは無縁の人だったそう。(小熊さんが学問の道に進んだのは、小学校教師の娘で教育熱心だったお母様の影響っぽい)

基本的に謙二さんのような一般的な庶民は、自らが体験した記録を残さない。だから戦争体験談といえば、高級将校や学生のようなインテリ層か、または自分の体験に強烈に思い入れのある人という偏ったものになりがちだった。

本書は、謙二さんの戦前、戦争中、戦後の記憶を、現代史家の林英一さんがインタビューし、それを小熊英二さんが当時の社会状況や政治的な背景を交えて文章化したものです。

軍部の愚かさは読んでいて怒りしか湧かないわ!謙二さんも言っていたけど、多くの人を死なせ、苦しめたこいつらがなんで反省もせずにいるのかと思う。ちゃんと責任とらせないから今みたいに「あの戦争は正しかった」みたいなことが性懲りもなく社会に出てくるんだな。

日本は戦争で被害を受けた国民への保障をしない方針(戦争の被害は国民が等しく受忍)で、保障らしきものはあくまで戦前からあった軍人恩給制度を適用させることだった。だから愚かなことをして責任取らなきゃいけない連中ほど階級が上だから恩給が手厚くて、バカな連中のせいで被害を受けた下の階級の人ほど手薄い。しかも当時、朝鮮や台湾にいて日本の戦争に巻き込まれた人はさらにその枠外という、ひっどいものだった。私はそれを恥ずかしながらこちらの本で初めて知りました。

こちらの本で画期的なのは、戦争体験、収容所体験で話が終わるのではなく、それらを体験した人の戦後から現在にかけての人生。戦争、収容所体験がその後の人生にどのような影響を及ぼすのかを追いかけているところだと思う。

決して愉快な話じゃないのに、私なんでこんなにスイスイと読めちゃったんだろう。なんかそういうスイスイ読み進めたくなる魅力があるんだろうな。