『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』

 

ネット右翼の終わり──ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか
 

 ヘアスタイルが印象的な保守論客、古谷経衡さんの著作。

私もぜんぜん知らない世界だったんだけど、ネトウヨ界の中でもケンカしてたり盛り上がりと盛り下がりの時期があったりと、ウヨ曲折を経ていたんですね。

ネット右翼が一番盛り上がっていた時期というのは実は安倍政権下ではなく、民主党政権下だったそうです。この時期はそれぞれ意見が違うネット右翼界でも「民主党政権」という共通の敵を得たおかげで一つになり、デモが開催されても安倍政権の現在では考えられないほどの動員数を誇っていたのだとか。例えば、2011年に行われたフジテレビが韓流ドラマを不当に垂れ流していることへの抗議デモは大いに盛り上がり、延べ1万人規模の人たちが集まったのだとか。私から言わせれば、大震災直後で原発事故も不安なこの時期になのにそっち!?という感じですが(確か当時もそんなツイートかリツイートをした記憶があります)、古谷さんによると、このあたりの時期が最盛期だったそうです。

安倍政権誕生後、ネット右翼の人たちは、旧日本軍という共通の敵を失った中国共産党軍と国民党軍が内戦を始めたように、再び分裂して勢いを失っていったそう。それから、ネトウヨ政権が誕生したことで運動のモチベーションを失ったというケースも多かったそう。確かに安倍政権誕生で「さあ、これからオレたちの時代が始まる!」と喜んでいられるのって、具体的に見返りのある保守論壇とか、直接あのあたりから美味しい何かがもらえるセレブ保守だからね。一般のネット右翼はそういうのないものね(ってか、ご本人たちがどう自覚されているのか知らないけどむしろ搾取しまくられる法なのではと思いますが)。

それからネット右翼ではなくて、曽野綾子さんとか渡部昇一さんとか昔からいる保守論壇のご老人方。この人たちとネット右翼の関係の説明も面白かった。基本的にね、両者の関係はリベラルと似てるの。そもそも若い人の政治離れが始まって久しい中、こういった政治保守論壇の人たちは、正論みたいな読む人が固定化していた保守老人サークルにずっと生息していたのね。そこでは内輪受けみたいな保守言論を互いに言い合って褒めあってるみたいな温室のような場で、とはいえ「このままじゃいかん…」みたいな閉塞感や危機感もそれなりに持たれていたそう。ちなみに、この保守言論とは何かというと、古谷さんによると自民党・清和会の言ってることそのまんまだって。

そこに、ネット右翼の台頭で、このご老人たちは「おおっ、最近では保守言論がインターネットの世界で若者たちに受けているらしい!わしらの時代が来た!」と大いに元気づけられたそう。彼らに去られたくない思いが強いので、その後だんだん表面化してくる質の悪いネトウヨの妄言も叱れないし、在特会のように町に出てムチャクチャやらかす連中にも何も言えない。在特会との関係を問いただされても「…そんな人たちは存じ上げません…」としか言えなくなってしまう。あとは、保守老人たちが「若者にウケてる!」と盛り上がっていたその若者というのは、実は若者ではなく中年だったというおまけもつくんだけどね。

一方、ネット右翼の人たちの起源というのは、古谷さんによると2002年日韓共催ワールドカップに求められるそう。これね、確かに私も覚えてる。テレビとネットの温度差があったんだよね。韓国チームのラフプレーとか買収とかがネットで騒がれているのにテレビはそれを報じないみたいな…。この辺り、私も具体的に韓国チームの何が問題だったのか、ちゃんと把握してないので無責任なこと書けないんだけど、とにかく温度差が激しくて、ネットの中でテレビへの怒りみたいなのが盛り上がってたんだよね。

というわけでネット右翼は、もともとマスコミと韓国への反感が元になっているので、だから本来の保守とか右翼とかの考えとは違うところがたくさんあるんだよね。