映画『流れる』

1956年の作品。
舞台は東京の隅田川の近くなのかな。
芸者の置屋が舞台だ。
そこに中年の女性が女中としてやってくる。

原作の幸田文の小説『流れる』では、その女中梨花が見た芸者の生活。著者の幸田文自身が芸者の置屋での女中経験があるそうで、そのときの体験がネタになった作品らしい。主人公の梨花幸田文本人だと考えられる。

小説を読んだのがだいぶ昔なので合っているかどうか自信がないが、主人公(作者)やたらと女性の媚びに厳しかったことが印象に残っている。確か、「芸者だけあって警察に連れて行かれるときにもしなを作っている」とか置屋の小さな女の子が熱を出したときの「こんなに小さいのにもう媚態を使うことをおぼえている」とか。それが妙に面白くて気に入った。

映画の梨花にはそんな意地悪は視点はなく、ひたすら優しい女中さんだった。小さな女の子もぽーっとしていて媚を売るような場面は見られなかった。けれど、それで正解じゃないかなと思った。そのほうが心地よく安心して映画を観られると思う。



梨香(田中絹代
ひたすら優しい女中さん。家事もよくできるし、怖そうな客が来でも進んで応対してくれて頼りになる。女中として初めてここの家に来たときは、皆から「年寄りが来てくれて助かる」「梨香って変な名前ね」と散々な言われよう。しまいには「梨香って呼びにくいからおはるさんでいい?」と名前まで勝手に変えられる始末。でも梨香は「はい、お使いにくいとは思いますが…」「はい、なんとでもお呼び下さい」とひたすらニコニコしてる。そうそう、一つよくわからなかったシーンがあって、初日の夜に布団の上に新聞紙を敷きまくってるところがあるんだけど、あれどういう意味だったんだろう。



つた奴(山田五十鈴
置屋「つたの屋」の女主人で、美貌と芸で昔は売れっ子芸者だった。今は男性(勝代の父?)にお金を持ち逃げされたか何かで借金でかなりお金に困っている状態。ただ、借金がなかったとしても、まともに稼げてる芸者はなな子一人だけで、そこに無職の娘と妹親子、それに女中まで置いて、どうみても赤字だと思うんだけど…。
山田五十鈴は浮世絵を実写化したらこんな感じになるんだろうなあという美しさだった。


勝代(高峰秀子
つた奴芸者の娘。芸者デビューをしたことはあるけど、あまりに無愛想な性格で性に合わず辞めた過去がある。母想いで責任感の強い性格。ニート状態を居づらく思っていて何か仕事をしようとしている。なので、着てる服は可愛くても表情はずっとブスッとしてる。前に、高峰秀子はかなりおっかない人だと聞いたので、けっこう本人の地に近い役柄なのではと思った。


染香(杉村春子
けっこう年がいってるのもあって、あまり売れてない芸者。住み込みではなく、近くのアパートに年下男性と住んでいる。お調子者でちゃっかりした性格。
イラストは借金取り(つた奴の姉)が来たのに気づいたシーンの顔w
表情がくるくる変わって魅力的なキャラクターなんだけどイラストに書きづらかった…。もっと練習していつかちゃんと描けるようになりたい。


なな子(岡田茉莉子
つたの家で唯一稼いでそうな芸者。若くてかわいく、本人も芸者としてどこででもやっていけると思っているのか、つた奴や置屋に対しても特に愛着とか義理とかは感じていない。むしろ否定的に見ている感じ。女優さんって年をとっても若いころの面影を残していたりするけど、岡田茉莉子に関しては「この間、一体何があった!?」という変わり様だと思った…そうか、整形してないからとも言えるのか。


つた奴の妹の米子の娘の不二子ちゃん(松山なつ子)
かわいい。映画ではほとんどセリフなし。まあ一応「お腹すいた」とか「おかあさんこわい」程度はあるけど、意志がありそうなセリフがない。子どもへの接し方がめっちゃ適当。「子どもと向き合って子どもの目線できちんと対話して…」みたいな価値観が登場する以前の時代という感じだったw
でも、大人の揉め事のあとに無言の不二子をしばらく映していたりするので、意志ある言葉は発しないけど、目撃者ではある、という感じなのかな。


米子(中北千枝子
不二子のお母さん。つた奴の妹。いつも着物が着崩れてる感じがした。わたし着物詳しくないけど、たぶん着物の選び方とか着こなし方みたいなのでキャラを表してるんだろうと思う。このイラストけっこう気に入ってる。


おとよ(賀原夏子
つた奴の異母姉。つた奴と染香にお金を貸している。「夕食は早く済ます」「食事と食事の間は食べない」「そうすると顔のシワに良い」などと妙に食にストイック。というか、単につた奴の家でごはん食べたくなかっただけだろうか。


お浜(栗島すみ子)
つた奴の頼れる先輩芸者なんだけど実は…という役どころ。『流れる』は貫禄ある女優さんがたくさん出てるけど、その中でも大ボスという感じだった。私の幼少時に近所に住んでいた、昔芸者をしていたというおばあちゃんに似てた。


佐伯(仲谷昇
お浜の甥。お浜のアシスタントのような使いっぱしりのようなことをしてる若いイケメン。つた奴がこの人のことを好きそうな描写がちょこちょこ見られたんだけど合ってるかな?つた奴が、おとよに金銭を援助してくれそうな社長に引き合わされるレストランに佐伯が現れたとたんに逃げ出しちゃうし…。