青木理『誘蛾灯 鳥取連続不審死事件』 男性たちを惹きつけた二つの理由

誘蛾灯 鳥取連続不審死事件

誘蛾灯 鳥取連続不審死事件

2009年、世間を賑わわせていた木嶋香苗の連続不審死事件とほぼ同時期に、鳥取でも似たような事件が起きていた。共通点は一人の女性の周囲で多数の男性が不審死していること。そして犯人とされている女性たちが「男性を手玉にとる→魔性の美女」という世間一般の思い込みをあっさりとくつがえすキャラクター(露骨に言えば容姿)であったこと。

鳥取連続不審死事件での主役は上田美由紀
青木理さん曰く「場末中の場末」のスナックでホステスとして働いており、その間に多くの男性と知り合い交際したという。これだけの男性が彼女に惹かれたのだから何かがあるはず、例えば人当たりがとても良いとか…などと、何か答えを期待しつつ読み始めるも、本書に出てきた上田美由紀は葬儀の場で人に金銭を無心しまくるわ、男性を恫喝して大金を持ってこさせるわ、交際していた男性を取り戻しにきた妻に向かって「お前の負けだ!」などと罵声を浴びせるわで、性格もかなりヤバい。

青木さんが上田被告と交際していた男性たちに話を聞いたところ、それなりに礼儀正しいところやマメなところや可愛らしいところがあるなどがあげられたが、よく考えたら「え、それってふつうじゃないの?」という程度のもの。そんな中で二つ印象に残ったものがあった。

1.押して押して押しまくる
上田美由紀は男性に対して非常に積極的で、青木さんによると「女の武器を総動員して」ガンガン突進していた。私自身をふくめ、多くの人は相手に拒否される怖さや「デリカシーのない人」だと思われるイヤさからとても抵抗感のあるやり方だが、遠慮がちでいるよりは、他者と深い仲になれる確率はずっと高い。上田美由紀もおそらく断られたり嫌がられたりしたことも多かったんだろうと思うが、そこで心が折れずにいけたことが大きかったのではないか。

2.子どもをだしにつかう。
交際していた男性たちは口々に「女手一つで子どもを五人も育てているのが不憫だった」と発言している。基本的に子どもや女性に対して同情心の強い男性が上田美由紀に巻き込まれていき、そこでさらに彼女が子どもたちに男性宛に手紙を書かせたり懐かせたりするので離れづらくなる…ということがあったようだ。ちなみに懐かせるだけではなく、監視対象の男性には見はり役をやらせたりもしている。
本書では子どもたちの気持ちはどうだったのかについては踏み込んだ書かれ方はされていないが、私が子どもだったら知らない男性に手紙を書かせられたり、母親と男性との恋愛沙汰にしょっちゅう付き合わされるというのはかなりイヤだ。この子どもたちを利用するというのは、読んでいて嫌悪感を覚えた。


青木さんの取材によるとこの事件の捜査も裁判もとてもお粗末なものだった。警察が捜査をしっかりしていれば、最後に亡くなった方の事件は防げたのではないかと思う。殺人は上田美由紀によるものではないか少なくとも単独犯ではなく、最後に同棲していた男性との共犯である可能性があるようだ。

上田美由紀被告としたほうがいいのか、さん付けにするのか迷いましたが、今回は何もつけないことにしました。