『漢字の現在―リアルな文字生活と日本語 』

 

漢字の現在―リアルな文字生活と日本語 (Word-Wise Book)

漢字の現在―リアルな文字生活と日本語 (Word-Wise Book)

 

 私にしては珍しい漢字に関する本。

台湾に行ってみて、漢字っていいなあと思うようになった。漢字がわかることで外国でも便利に行動できたし、それからある言葉について日本語とまた違う漢字を使っているのを見て漢字の世界って面白いなと思った。例えば中国語だとニキビのことを青春痘と表現する。

こちらの本は前半が日本の漢字の変遷、後半は中国、韓国、ベトナムという漢字文化圏との比較。

言葉は生き物で常に変遷しているものだということがあらためてわかる。例えば、「からあげ」に当てられる漢字には唐揚げと空揚げがあるが、空揚げの方が歴史が古く、そういう意味ではこちらが「正しい」言葉だと言える。ただ、本書では正誤よりも、どういう思いや状況で漢字が変化していったのかがメインの話題だ。

誤用や当て字であっても、そちらが多くの人にフィットして浸透すれば、立派に「正しい」言葉となる。真面目という言葉は、もともとは「シンメンモク」という読み方の、ありのままの姿を意味する漢語だった。それが「まじめ」という江戸時代ごろから現れた言葉の当て字の一つとなり、19世紀末にはその数ある「まじめ」の当て字の中で一番普及して行ったが、戦後の当て字を廃する政策で真面目は常用漢字表で排され、公式には「正しくない」漢字だったものの、その浸透っぷりについに2010年、常用漢字表の付表に真面目が採用されることになったのだ。

そして「まじめ」は「マジ」になり「本気と書いてマジ」になり「真剣と書いてマジ」になり、さらに「マジ」が「ガチ」になって現在も展開中だ。

このように、「正しい言葉」「正しくない言葉」なんて、言葉の長い歴史の中のほんの一時のことなのだ。ははは、見たか「正しい言葉刑事」め!

誤字が定着していく理由の一つに、PCやiPhoneなどの予測変換が大きな役割を果たしているというのもおもしろかった。

それから後半の漢字文化圏との言葉比較も良かった。ベトナム漢字文化圏なんですね!漢語が中国からどうやって周辺諸国に普及・定着して行ったのか。韓国とベトナムは文字はそれぞれハングルとアルファベットで漢字とは離れているものの、発音と意味に漢語が残ってるんだって。逆に日本は文字が漢字で中国に近く、発音が遠く隔たっている。こんな違いも興味深かった。