『わたぶんぶん―わたしの「料理沖縄物語』

 

わたぶんぶん―わたしの「料理沖縄物語」 (〈文明の庫〉双書)

わたぶんぶん―わたしの「料理沖縄物語」 (〈文明の庫〉双書)

 

 こちらの本の感想をずっと書きたいと思ってたんだ。

薄い本だし食のエッセイということで、ほんの軽い読み物かと思ったら、思いのほか濃密で印象深い読書体験になりました。

もちろん、本書の魅力はまずは沖縄料理の美味しさが前面に出た、非常に美味しそうなエッセイだということです。だけどその底には、沖縄出身の両親を持つ東京生まれの著者のルーツを辿るというテーマが流れています。

一つ一つのエピソードを読みながら、それが最後の方に行くと「冒頭にあったエピソードがこうつながるのか」としみじみと響いてきます。

読みながら改めて思うのは、文字だけのことなのに、沖縄の街並みや空気、著者が幼い頃に過ごした椎名町の長屋の生活感、そういったことがありありと感じられる不思議さです。それが文章力なんだなあ。

そうそう、沖縄にフルーツ栽培をもたらした台湾からの移民のことや、沖縄側から見た奄美と沖縄の違いとか、米軍基地が迫り来る中での生活、そういったこともとても勉強になりました。