『ヘア・カルチャー もう一つの女性文化論』

 

ヘア・カルチャー―もうひとつの女性文化論

ヘア・カルチャー―もうひとつの女性文化論

 

 髪の毛っていうのも不思議な存在だよね。

人間の体に生えた木や草みたい。自然と社会性の交差点。堅苦しい場ほど、きちんと手入れしてその自然を御さなくてはならない。男性は女性よりも自然から遠のいて生きている場合が多いので、髪は常に短く刈り込む。女性でも、例えば皇室みたいな堅苦しいところに嫁いだら、自然に下ろすヘアスタイルから、スプレーでカチカチに固めたような髪型になる。

本書はアメリカのヘア文化(特に女性の)を論じたもの。すごく面白かった!

アメリカでは、ヴィダル・サスーン上陸以前の50年代、60年代前半くらいまで、髪というものは乱れてはならぬとばかりに、技巧的に盛り上げた髪の毛をスプレーでガチガチに固めたのが良しとされていたんだって。そういえば、あのマリリン・モンローもセクシー女優の割には髪型は意外にもロングヘアじゃなくて、ガチガチ固め系だったんだよね。

ヴィタル・サスーンは、従来のように「あるべき髪型」に人を当て嵌めるのではなく、その人の頭の形に合わせたもので、カット後もいちいちセットしなくてもいい再現性の高いカットを始めた人。今や当たり前になった考え方だけど当時は革命的で、反発も強かった。サスーンがアメリカで美容院を開くときには、美容監査局というまさに「髪型はこうあるべき」を象徴する役所との闘いがあったそう。この闘い、ヴォーグをはじめメディアは総じてサスーンの味方だったけど、著者によるとその他ほとんどのアメリカ人は美容監査局の味方だったのではと。

アメリカの地方ではこの本が書かれた90年代当時も、この美容監査局的な流れがあって、どんなに都市部のおしゃれな人たちからダサイとバカにされようとも、逆毛を立てて膨らませスプレーで固定したヘアスタイル(ビッグヘアというそうです)は根強い人気で全然廃れないんだって。

ちなみにこのビッグヘアはカントリーミュージックの歌手なんかにも愛好されているそう。日本で言うと、たぶん演歌とかヤンキーとか、ああいうテイストなのかもしれんね。

あとは髪色の考察にも多くのページを割いてる。前からアメリカの芸能界隈の記事を見かけると「おまいら、金髪で胸が大きかったら誰でもいいと思ってるんちゃうか!」なんて思っていたけど、まんざら外してなかったことがわかったw