『自負と偏見のイギリス文化―J・オースティンの世界 (岩波新書)』

 

自負と偏見のイギリス文化―J・オースティンの世界 (岩波新書)

自負と偏見のイギリス文化―J・オースティンの世界 (岩波新書)

 

 遅ればせながら「オースティンいいなあ」と読み始めたので、こちらの解説本を読んでみました。といっても、私が読んだのってまだ『エマ』と『マンスフィールド・パーク』の二つだけなんだけど。しかもこの解説本はけっこうネタバレがあるので、読まずして色々な本の結末を知ってしまった。でもオースティン本の魅力は描写の面白さにあるのだからいいかな。

こちらはイギリスの文化史の勉強にもなってよかった。近代のイギリスといえばヴィクトリア朝なので、オースティン作品の舞台もヴィクトリア朝と勘違いされがちなんだけど、実はその前の「摂政時代」を背景にしていたんだって。ジョージ4世が父の代わりとして摂政を務めたときから彼が即位して死ぬまでの時代で、お堅いヴィクトリア時代とは対照的に、奢侈、自由奔放、快楽主義が時代の雰囲気だったのだそう。

オースティンはこの摂政時代の人で、ヴィクトリアが即位する前に亡くなっている。摂政時代の特徴を表しているうちの一つは、例えば『エマ』で主人公のエマに散々振り回されることになる私生児のハリエット・スミス。彼女のお父さんは誰だかわからないんだけど、エマをはじめ、周りの人はそれについて特に差別したり嫌悪したりということはない。ヴィクトリア時代だったらそこがもっとマイナスに描写されていたかもしれない。

オースティンが小説を書き始めたきっかけは、当時出回っていた小説が、やたらドラマチックでうんざりするものばかりだったので、「よし、それをいじってやれ」といことだったらしい。だから初期の習作は、そういった小説でありがちなキャラクターをカリカチュア化して描いたギャグ作品が多く、またその後の作品でもそういった雰囲気は持続している。

イギリスの階級問題について。オースティンは「自分の知ってることしか書かない」がポリシーだったので、オースティン作品に登場するのはもっぱら中産階級。貴族でもなく労働者階級でもないんだけど、地主とか牧師とか知的職業とか。日本とは違う社会なのに、この階級意識の中で悲喜劇が起こるのが、なぜか日本人の私にも「あーいるいるそういう人」と面白く読めてしまう。例えば、中産階級にいても、成り上がってそこに仲間入りした人のように地位が不安定な場合、見栄を張ったり他の人を見下したりという行動を取ることが多いとかね。

それから、オースティンがいかに英語圏で愛されているかも知ることができた。本国イギリスでは当初「ジェイナイト」と呼ばれるオースティンファンの紳士たちがいて、「俺のジェーン」とばかりに、オタク的に内輪でオースティンのユーモアなんかを愛でていたんだって。その後、伝記の発売やリバイバルでより一般的に人気は広がり、現在のジェイナイトは女性が多く、オースティン作品の登場人物をコスプレして集まって楽しんだりしているそう。アメリカでのジェイナイトは「古き好きイギリス」への憧れなんかも混ざっていると解説されていました。