筒井哲也『予告犯』

- 作者: 筒井哲也
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2012/04/10
- メディア: コミック
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全3巻。
違法にゲームをアップロードした中学生の家に刑事たちが踏み込む場面から物語は始まる。
ひきこもりらしい中学生(醜く憎々しげな少年に描かれている)は、ネットではそれなりに有名人で注目を集めていたが、「家宅捜査なう」とツイートした、そのリプライのほとんどは「ざまあww」「wwww」と嘲笑するものばかりだった。
無骨だけどやり手の美人女性刑事は中学生でも容赦なく裁いていく。
(裁く仕事は裁判官の役割だが、漫画世界の中ではこの女性刑事が読者を代弁してこの少年を裁いている)
一方、とあるネットカフェからは、新聞紙をかぶった男が食品偽装を起こした食品会社への放火を予告した動画をyoutubeにアップしていた。
この新聞紙男はなかなか尻尾を出さない。有能なハッカーでもあり、警察もなかなか手がかりがつかめず翻弄されっぱなしだ。新聞紙男は「レイプされた女性を嘲笑したツイートをした男」「面接に来た求職者をバカにする実況をした男」「被災地を侮辱した、シーシェパードを思わせる団体」などに正義の鉄槌を下していく。
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読み始めた当初は、どこに正義があるのかがよくわからなかった。新聞紙男が正義の鉄槌を下すターゲット達もそれぞれに悪者だけれど、読んでいるとそれほど罰を下すターゲットに一貫性があるようには思えない。そうなると「ネットと連動し、軽薄に正義を振りかざすこと」を糺す方に正義があるのだろうか。それも陳腐でありきたりな結論だが…
…と思いながら「こんな感じで進むなら読むのやめようかなあ」と思っていたところ、1巻の終わりから様相がガラリと変わりどんどん引き込まれた。最初感じた陳腐な正義は新聞紙男の仕掛けで、目的を達するためのコマにすぎない。彼らの目的はもっと違うことにある、ということが明らかになっていく。
それからはもう面白くて最後まで一気に読んでしまった。
それまでの引っ掛かりやちょっとした疑問が、その目的に向かってどんどん回収されていく。
結末も、最後まで読んできた多くの読者が納得する収め方だったと思う。私はハッピーエンドだと感じた。もちろん、イージーな形でのハッピーエンドじゃないことはわかるだろう。
傑作です。
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美人女性刑事については、読み始め当初は「こちらが主役なのかな」と迷っていた。だが、このマンガが面白くなってくる1巻後半から徐々に存在感がなくなり、重点は新聞紙男に移ってくる。
当初、女性刑事について「無骨だけど筋の通ったやり手美女なんてこの手のマンガにありがちなキャラクターだなあ」と鼻についていたけど、それはこのキャラクターに添え物以上の意味がないからだろう。例えば、美女でもなく内気で自信のないキャラクターだとしたら、そこでなぜそういうキャラクターなのか説明する必要が出てくる。ということは、そこでキャラクターに深みとか重要度が増してしまう。だから「華は添えるけど、それ以上の説明はいらない。=添え物」ということでよくあるキャラクターにされたのではないかと思った。
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私はこの作品のヒロインはあの人だと思う。
ヒロインといっても女性ではないし、性的な存在でもない。本人は無自覚なんだけど、物語を動かす原動力で皆の心を動かす、そういう意味でヒロインだと思った。