『痴人の愛』

 

痴人の愛 (新潮文庫)

痴人の愛 (新潮文庫)

 

 これ若い頃に一度読んだけど、けっこう内容を忘れてた。当時は「ナオミすごすぎる…。やっぱりこれだけ美しければ男も金も思い通りにできるんだろうか」と、ひたすらすごいすごいだったんだけど、今読むとそれはまあ感想も違ってくるよね。

まずナオミの話というよりも、ナオミと譲治のバカップル話だと今回は思った。割れ鍋に綴じ蓋みたいなね。そもそも冒頭からして譲治の「私たち夫婦の話を聞いて下さい」みたいなのから始まるしね。

粗筋は、世間では真面目で通ってるサラリーマンの譲治が、カフェーの女給をしていた少女ナオミを見初め、「ハーフっぽい容貌も白人好きな俺の好みだし、ここは一つ、彼女を引き取って理想の女に仕立てたる!」と、共に暮らし出すんだけど、ナオミがとんでもないモンスターに成長して、すっかり尻に敷かれまくった夫婦生活になる。という話。

文庫本裏表紙の解説には「やがて譲治も魅惑的なナオミの肉体に翻弄され、身を滅ぼしていく」とあるんだけど、会社を辞めてからも、仲間と会社を作って経営者になり、しかも実働は仲間が担ってくれるから出資者の譲治は基本的に何もしなくてよくて、その上、ナオミとの贅沢な暮らしを賄う生活費を捻出できてるんだから、身を滅ぼすどころか成功してるよねこれ。結局、振り回されるるも好きなナオミと一緒に暮らせてるし、ナオミの方も激しく男遊びをしつつも、結局ずっと付き合ってくれるのは譲治だけみたいだし。

ただ、ナオミの「性を売り物にしてのし上がる」ってすごくリスキーな生き方だよね。これはこの歳になっていろいろと見聞きしてほんとそう思う。小説だから無事に来れたけど、現実世界だったら殺されたりレイプされたりみたいな危険と隣り合わせだから。

「少女を引き取って理想の女性に」というと、源氏物語光源氏と紫の上みたいだけど、これは明らかにナオミの方が幸せを掴んでると思う。だって、紫の上は源氏を顎で使うなんてできないし、不本意なことがあっても勝手に出ていくなんてできないものね。

あと、『痴人の愛』では、舞台が大森で、京浜急行京浜東北線(小説内では省線としか書かれてなかったけどたぶんこの路線)とか、横浜の山手や本牧が出てきたりと、わりと馴染みのあるところが出てきたので楽しかった。ナオミたちは当初、大森で暮らし始めて、そのうちにナオミが「もっとハイカラな生活がしたい!」と、それで横浜に引っ越していくんですよ。今の横浜にはハイカラの残骸があるだけだけど、当時は現役のハイカラだったんだなと感慨深かったw