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『アフガニスタン母子診療所』

 

アフガニスタン母子診療所

アフガニスタン母子診療所

 

 日本の女医さんが、アフガニスタンの小さな産婦人科で働いた体験記。派遣されたNGO、派遣された郊外の地方都市、著者名、登場人物は危険を防ぐために実名が伏せられてる。

体験記も、地雷から身を守るための地雷講習会、診療所に出入りするための暗号を覚える無線講習会の話、重たい毛布を何重にも重ねないと眠れないくらいのすさまじい冬の寒さ(ストーブはいつ火を噴くかわからないので寝ている間は使えない)など、物騒なところから始まる。

そこから診療所の内部に入り込んで、当初は壁のあった現地スタッフたちと打ち解け合って仲良くなり、みんなで危機を乗り越えて治療にあたったり、著者の女医さんが帰国するまでに帝王切開の手術を習得していくこととかプロジェクトがどんどん進んでいく様子が醍醐味。

あと、著者が女性なので、あの謎に包まれているアフガニスタン女性がいったいどんな人たちで何を考えて暮らしているのかに触れられるのもいい。主な登場人物は診療所のスタッフで、中でも長年ここの診療所で患者を見てきた助産師のナジアが、一番登場回数も多く感情移入できる。彼女は看護学校卒業後ずっと働き続けてきたアラフォー独身助産師。アフガニスタンでは年端もいかない娘時代に結婚させられる人が多いので、おそらくかなり珍しい女性なんだろうな。むしろ日本人女性に近いよね。それから、アフガン女性は正確な年齢がわからない人が多いのでまさにアラフォーなんです。

本書の読者で彼女ナジアの考え方や働きぶりに共感する人はとても多いと思う。献身的で有能、他のガハハ系女性スタッフが下ネタで盛り上がる中、クールな表情で「これはこういうことでしょ」と冷静にコメントw、かと思うととても優しくて、アフガニスタン女性の不当な扱いに怒りを抱き、新婚初夜に怖がる妻に無理に性行為を行って大怪我をさせた夫に強く説教する。

それからアフガニスタンで女性として生きる苛酷さもあらためて感じた。個人的に気のいい人はたくさんいるし、ナジアの家族ように女性の教育やキャリアに理解のある男性もいるんだけど、社会全体として女性の地位がめちゃくちゃ低い。低いというか、言葉は悪いけど家畜のようなものなのでは…とも思ってしまった。基本的に女性は家族の財産みたいな感じなんだよね。本書の中にもアフガニスタンでは女性は宝のようなものみたいな記述が出てくるけど、裏を返せば人間扱いしていない、価値のある家畜みたいな感じもでもある。

それからあの悪名高い名誉殺人の話も出てきます。ある日、年若い女性とその家族が「処女かどうか検査してほしい」という依頼で診療所を訪ねる。著者の診察によると明らかに処女ではないんだけど(どうやって判断するんだろうね!?)、実は彼女は長年親戚の男性からレイプされ続けていて、ここで処女ではないと診断されたら「家族の顔に泥を塗った」と殺されるという話が続いてくる。私の感覚だと「家族の顔に泥を塗ったと殺すのはそのレイプ犯だろ!」としか思えないんだけど…。そんな状況を、診療所スタッフと著者の機転で回避されるというエピソードです。

ナジアをはじめ診療所のスタッフは現状を認めつつ、そういう女性たちの状況に怒りを持っているというのが救いだったけど、一方で彼女たちは教育をうけて外に働きに出ているという、ある意味アフガニスタンの中でもかなりレアな存在なので(多くの女性は家からほとんど出ず教育も受けられない)、他の女性たちはどう思っているのかな…

そうそう、終わりの方に出てくるナジアの結婚話も良かったよ。ナジアの家族は、彼女の生き方を許容しているようにアフガニスタンの中でもかなり寛容な方だと思うんだけど、それでも女性を独身のままでいさせておくというのは世間からのプレッシャーが強いようで、また女性を嫁がせると相手の男性から多額の持参金を得ることができるという実際的な理由もあって、無理やり結婚させられそうになる危機がやってくる。珍しく弱気に落ち込むナジア。持ち前の賢さで診療では何度も修羅場をくぐってきたけど、今回の危機には負けてしまうのか…というところで、実に彼女らしく幸せを掴んでいく、というのも読んでいて楽しかったです。